「片務契約」という言葉についてお話ししますね。これは聖書、特に旧約聖書の契約を理解する上で非常に重要な概念です。
契約の基本的な意味
契約の二つのタイプ
契約には大きく分けて二つのタイプがあります。
1. 双務契約(そうむけいやく)
両方の当事者に義務がある契約です。
例えば、「あなたがこれをするなら、私はこれをする」という条件付きの契約です。
2. 片務契約(へんむけいやく)
一方の当事者だけが義務を負い、もう一方は無条件で恩恵を受ける契約です。
「私はこれをする。あなたの行動に関わらず」という無条件の約束です。
聖書における片務契約
アブラハム契約(創世記12章、15章、17章)
アブラハムとの契約は、基本的に片務契約の性格が強いんです。
創世記15章の契約締結の儀式を見てみましょう。
創世記15章17-18節:
「さて、日が沈んで暗くなったとき、見よ、煙の立つかまどと、燃えているたいまつが、あの切り裂かれたものの間を通り過ぎた。その日、主はアブラムと契約を結んで言われた。『わたしはあなたの子孫に、この地を与える』」
この場面の重要性:
当時の契約締結の儀式では、動物を真っ二つに切り裂き、契約の両当事者がその間を歩いて通ることで、「もし私がこの契約を破ったら、この動物のようになってもよい」と誓ったんです。
でも、ここで何が起こったでしょうか。
アブラハムは眠らされていました。そして「煙の立つかまどと燃えているたいまつ」(これは神の臨在を表します)だけが、切り裂かれた動物の間を通ったんです。
これの意味は何でしょうか。
神様だけが契約の義務を負われたということです。アブラハムは通りませんでした。つまり、この契約は神様の一方的な約束であり、アブラハムの行動に条件づけられていないんです。
片務契約の特徴
1. 無条件性
神様の約束は、人間の従順や不従順に関わらず成就します。
2. 神の主権
契約の成就は完全に神様の力と忠実さにかかっています。
3. 恵みの性質
人間の功績によらず、神様の一方的な恵みによる約束です。
4. 確実性
神様は誓われたことを必ず実行されます。人間が失敗しても、神様は失敗されません。
モーセ契約との対比
モーセ契約(シナイ契約)
一方、シナイ山でモーセを通して与えられた律法の契約は、双務契約的な性格を持っています。
出エジプト記19章5-6節:
「今、もしあなたがたが確かにわたしの声に聞き従い、わたしの契約を守るなら、あなたがたはあらゆる民族の中にあって、わたしの宝となる。全世界はわたしのものであるから。あなたがたは、わたしにとって祭司の王国、聖なる国民となる。」
「もし…するなら」という条件がついていますね。
しかし注意してください:
モーセ契約も、アブラハム契約の枠組みの中にあります。神様がイスラエルをエジプトから救い出したのは、まずアブラハムへの約束のゆえでした。
二つの契約の関係
アブラハム契約(片務契約):
- 「わたしはあなたを祝福する」
- 「わたしはあなたの子孫を増やす」
- 「わたしはあなたに土地を与える」
- 条件なし
モーセ契約(双務契約的要素):
- 「もしあなたがたが従うなら、祝福される」
- 「もし不従順なら、呪いを受ける」
- 条件付き
でも、根底にあるのはアブラハムへの無条件の約束なんです。
新約聖書における契約の理解
パウロの解釈
使徒パウロは、ガラテヤ人への手紙でこの区別を明確にしています。
ガラテヤ3章15-18節:
「兄弟たち、人間の場合を例にとって言います。人間の契約であっても、いったん結ばれたら、だれもそれを無効にしたり、それに追加したりはしません。ところで、約束は、アブラハムとそのひとりの子孫に告げられました。『子孫たちに』と言って多数を指すのではなく、ひとりを指して、『あなたの子孫に』と言われています。その方はキリストです。私の言おうとすることはこうです。神によってあらかじめ結ばれた契約を、その後四百三十年たってできた律法が無効にして、その約束を反故にすることはない、ということです。相続がもし律法によるのなら、もはや約束によるのではありません。しかし神は、約束を通してアブラハムに相続の恵みを下さったのです。」
パウロの論点:
- アブラハム契約(片務契約)が先に来た
- 律法(モーセ契約)は430年後に来た
- 後から来た律法は、先の約束を無効にできない
- 救いは約束(恵み)による、律法(行い)によらない
新しい契約
そして、イエス・キリストによって与えられた新しい契約も、本質的に片務契約的です。
エレミヤ31章31-34節で預言された新しい契約:
「見よ、その時代が来る──主のことば──。そのとき、わたしはイスラエルの家およびユダの家と、新しい契約を結ぶ。…わたしは彼らの咎を赦し、もはや彼らの罪を思い起こさない。」
新しい契約の特徴:
- キリストの血によって締結された
- 神様の一方的な恵みによる
- 完全な赦しの約束
- 神様が私たちの心に律法を書き記す
ヘブル8章6節:
「しかし今、キリストはさらにすぐれた務めを得られました。それは、さらにすぐれた約束に基づいて制定された、さらにすぐれた契約の仲介者となられたからです。」
契約の実際的な適用
1. 救いの確信
片務契約の理解は、私たちの救いの確信の基礎です。
救いが神様の一方的な恵みによるなら、私たちの不完全さが神様の約束を無効にすることはありません。
ローマ8章38-39節:
「私はこう確信しています。死も、いのちも、御使いたちも、支配者たちも、今あるものも、後に来るものも、力あるものも、高いところにあるものも、深いところにあるものも、そのほかのどんな被造物も、私たちの主キリスト・イエスにある神の愛から、私たちを引き離すことはできません。」
2. 恵みの理解
私たちは何かをして神様の愛を獲得するのではありません。神様はすでに愛してくださっています。
エペソ2章8-9節:
「この恵みのゆえに、あなたがたは信仰によって救われたのです。それはあなたがたから出たことではなく、神の賜物です。行いによるのではありません。だれも誇ることのないためです。」
3. 失敗への対処
私たちが失敗しても、神様の約束は変わりません。
アブラハムはエジプトで失敗しました(創世記12章)。でも神様の約束は取り消されませんでした。
ペテロはイエス様を三度否定しました。でも復活後、イエス様は彼を回復させました。
これが片務契約の美しさです。
4. 感謝と従順
「では、従順は必要ないのか」という質問が出るかもしれません。
いいえ、違います。
私たちが従順であるのは、救いを獲得するためではなく、すでに受けた恵みへの応答としてです。
ヨハネ14章15節:
「もしわたしを愛しているなら、あなたがたはわたしの戒めを守るはずです。」
愛から生まれる従順です。義務からではなく。
片務契約のまとめ
片務契約とは:
- 一方(神)だけが義務を負う契約
- 無条件の約束
- 人間の行動に左右されない
- 神の恵みと忠実さに基づく
聖書の中心的なメッセージ:
創世記から黙示録まで、神様は片務契約を通して人類を救おうとされてきました。それは最終的にイエス・キリストにおいて成就しました。
私たちの救いは、私たちの行いによらず、神様の一方的な恵みによります。それがアブラハム契約から新しい契約まで、一貫した神様のメッセージなんです。
だから私たちは、確信を持って神様に近づくことができるんですね。



コメント (手動承認)